従業員がエンゲージメント高く働ける環境が企業価値の向上、高い生産性、高度人材確保には不可欠である
エンゲージメントサーベイが必要な理由の1つとしては、従業員がやりがいを感じながら主体的に働ける、すなわち、エンゲージメント高く働けるような環境づくりが、企業が持続的に企業価値を向上させていく上で不可欠であることが挙げられます。
日本ではサービス産業がGDPの7割以上を占めることから、これまでも人や組織が競争力の源泉として認識されてきましたが、近年は企業価値向上の観点から人的資本に注目が集まっています。特に、2020年9月に経済産業省より公表された「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」(以下、人材版伊藤レポート)において、「従業員エンゲージメント」という言葉が繰り返し登場している点は注目に値します。
「人材版伊藤レポート」では、企業価値の向上のために人材戦略の変革が提唱され、人材戦略に求められる要素の1つとして従業員エンゲージメントが挙げられています。日本の従業員エンゲージメントが諸外国と比較して低いこと、従業員エンゲージメントと業績に関連があることが示され、経営戦略の実現や新たなビジネスモデルへの対応のために従業員がエンゲージメント高く働くことの出来る環境づくりの必要性が指摘されています。
以上の話は決して企業価値の向上を特に強く求められる上場企業に限った話ではないと考えられます。日本国内において生産年齢人口(15-64歳)が年々減少を続けていることを考えると、企業が競争力を維持、向上させていくためには、従業員一人一人が生産性高く長期間働く必要があります。そのためには、従業員がやりがいを感じながら主体的に働ける環境が前提となります。また、今後必要となるデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導するような高度スキルを持った人材が働きたいと思える企業、働き続けたいと思える企業であるためにも従業員がエンゲージメント高く働ける職場かどうかが重要と言えます。
データにもとづく人と組織の状態の可視化が必要である
エンゲージメントサーベイが必要な理由の2点目としては、データにもとづく人と組織の状態の可視化が求められていることが挙げられます。
これにはいくつか背景があります。1つは従業員のバックグラウンドの多様化の進展です。従業員が男性正社員中心で比較的均質だった時代には、人事部門の感覚や経験、社内で接する範囲の従業員とのコミュニケーションで得られた情報にもとづいて企業全体の人材の状況、組織風土が把握出来たかもしれません。しかし、現在では、中途採用も珍しくなく、職務経験はもちろんのこと、価値観やモチベーション、キャリア志向も異なる様々な立場の従業員が同じ職場で働いていることも珍しくありません。そのため、人事部門の感覚や経験、業務で接する範囲の従業員から得られる情報だけでは従業員エンゲージメントのような人と組織の状況を正確に把握することは難しく、サーベイ等で得られるデータを使って把握することが必要になっていると言えます。新型コロナウイルス感染拡大のいわゆるコロナ禍においてテレワークが普及し、オフィスに出勤しない従業員が増えたこともデータによる人や組織の状態の可視化の必要性を高めているとも言えます。
加えて、前節で言及した「人材版伊藤レポート」において提言されているような、人材マネジメントの目的を「管理」から「価値創造」に転換するよう求める動きもデータの必要性を後押ししていると言えます。従来は人件費や研修その他人材・組織開発に関わる様々な施策に要する費用はコストと認識され、予算の範囲内で支出する考え方が一般的でした。しかし、企業価値向上の観点からはそれらを価値創造のために必要な投資として認識し、投資対効果を評価する形に変わっていく可能性があります。これまで人事部門で活用されるデータは人件費、労働時間、教育研修費といった投資で言えばインプットに相当するものが中心でしたが、今後は、投資のアウトプットとして、たとえばエンゲージメントサーベイを通じて得られた従業員エンゲージメントに関するデータが必要となってくる可能性が高いと言えます。
コロナ禍以降に起こり得る変化としては、経営層が人事部門に対して従来よりもタイムリーなデータを求めるようになる可能性も否定できません。コロナ禍においては、刻々と変化する所在地の感染者数や重症化率といった年度よりも短いKPIをもとにしてテレワークや出勤方針等が判断されることが一般的となりました。今後は、従業員エンゲージメントのような人と組織の状況に関するKPIについても従来の年度間隔よりも短い間隔でタイムリーに経営層に報告するよう人事部門に求められる可能性があります。
「OurEngage(アワエンゲージ)」ではデータドリブンな従業員エンゲージメントの把握・向上がどのように実現されているか
ここまで、企業価値の向上、生産性の向上、人材確保等の観点から従業員エンゲージメントに着目する必要があること、データにもとづいて人と組織の状況、とりわけ従業員エンゲージメントを可視化し把握するニーズが高まっていることを述べました。ここからは、サイオステクノロジー株式会社によって開発されたエンゲージメントサーベイである「OurEngage(アワエンゲージ)」において、従業員エンゲージメントの把握と向上をデータドリブンに行う仕組みがどのように実現されているかを解説します。
- 1.従業員エンゲージメントと関連する人と組織の状態を10要因で評価
- 「OurEngage(アワエンゲージ)」は、組織行動論、組織心理学、ポジティブ心理学等の様々な学術的知見に加え、人材・組織開発の現場で得られたノウハウをもとに従業員がエンゲージメント高く働くために必要な10個の要因をサーベイに対する従業員の回答をもとに評価します。「OurEngage(アワエンゲージ)」で評価される10個の要因は従業員エンゲージメントと関連があることはもちろんですが、従業員の仕事のパフォーマンスや離職意思、メンタルヘルスとも一定の関連を有することが分かっています。したがって、「OurEngage(アワエンゲージ)」で把握された10個の要因をKPIとして把握し改善することで、従業員エンゲージメントだけでなく、従業員の生産性やメンタルヘルスにも好影響を及ぼすと考えられます。
- 2.タイムリーな調査の実施と従業員負担の軽減の両立
- 「OurEngage(アワエンゲージ)」は1年に1回実施されることが一般的な従業員満足度調査やストレスチェックよりも高頻度で実施されるため経営・人事部門がタイムリーに現状を把握し、従業員エンゲージメント向上のためのPDCAをより短期サイクルで回すことが可能となります。
いわゆるパルスサーベイのような高頻度で実施されるサーベイは従業員の回答負担が大きいことが懸念点ですが、「OurEngage(アワエンゲージ)」では、短期間で変動しやすい項目はより短い間隔で実施され、長期間安定している項目についてはより長い間隔で実施されます。そのため、サーベイ実施1回あたりの実施項目数が最小限となっており、従業員の回答負担を抑えながら、経営・人事部門による「従業員エンゲージメントの状態をタイムリーに把握したい」というニーズに応えることが可能となっています。 - 3.個人と組織に対する直観的なフィードバックと改善のためのアドバイスの提供
- 従業員がエンゲージメント高く働くことの出来る組織となるには従業員自身による自律的な取り組みと経営・人事部門による組織的な取り組みの両輪が必要となります。「OurEngage(アワエンゲージ)」では、調査結果の分かりやすい可視化に加えてエンゲージメント向上の手掛かりとなるアドバイスがタイムリーに提供される点も特徴です。
サーベイに回答した従業員に対しては、自身の回答結果にもとづくフィードバックに加えて従業員の属性に応じてカスタマイズされたエンゲージメントを高める観点からのアドバイスが提供され、日々の行動の振り返りや今後の行動改善に活かすことが出来ます。
経営・人事部門向けには組織単位でのレポート機能を搭載しており、組織全体、部門・属性単位での集計結果、強み、弱みとなっている要因を把握することが出来ます。エンゲージメント向上を組織全体で進める上で参考になるアドバイスが提供されるため、それらを手掛かりとして組織としての施策につなげることが可能と考えられます。
本稿のまとめ
- ・企業価値の向上、生産性向上、高度人材確保には従業員がエンゲージメント高く働ける環境づくりが不可欠であるとの認識が広まりつつある。
- ・従業員の多様化やテレワークの普及等により、データにもとづいて従業員エンゲージメントに代表される人と組織の状態の可視化が人事部門で必要となりつつある。企業価値向上の観点からは人的資本に対する投資対効果を評価するために、従業員エンゲージメントを人的資本に対する投資のアウトプットとして示すことが求められる可能性がある。
- ・「OurEngage(アワエンゲージ)」は、従業員がエンゲージメント高く働くために必要となる10個の要因を、従業員の回答負担を最小限としつつタイムリーに評価するため、経営・人事部門は従業員エンゲージメント向上のためのPDCAをより短期サイクルで回すことが可能となる。サーベイに回答した従業員には自身の回答にもとづくフィードバック、経営・人事部門には部門や属性単位でのフィードバックがそれぞれ提供されるほか、エンゲージメントを高めるためのアドバイスが従業員本人と経営・人事部門に提供されるため、個人と組織の両輪で従業員エンゲージメント向上を図ることが可能である。
宮中大介さん